2012年8月9日木曜日

ペイオフ実施への備え

今後、金融行政を担う金融庁の課題は何か。それはいうまでもなく、すでに約束した護送船団行政からの完令な決別である。そのひとつの試金石が、金融機関が破綻した際、預金払い戻しの上限を1000万円までの元本と利息とするペイオフの実施だ。本来はペイオフは元本だけとするはずだったが、論議の過程でいつの間にか利息も含まれることになった。

ペイオフはもともと、九六年の預金保険法改正で解禁まで五年間の猶予が与えられ、二〇〇一年四月から実施される予定だった。しかし、九九年十ー月二九日、当時の自民、自由、公明の与党三党はペイオフ解禁を一年延期して二〇〇二年四月からとすることに決めたのである。信用組合など地域の中小金融機関の経営に配慮した結果だ。二〇〇〇年中に実施。される衆院総選挙を意識したゴリ押しだった。

二〇〇一年四月からのペイオフ解禁は国内外に宣言した国際公約であり、それを破ったことは日本の金融システムの不安定さを世界に示したことになる。ペイオフ延期論はその一、二年前からくすぶり続けていた。実際、経営基盤の弱い中小金融機関からの預金流出などはあった。だが、それこそがペイオフ実施の目的なのである。そうした金融機関は経営努力で事態を打開すべきだし、それが不可能なら、市場から退くしかない。

確かに、もし九六年の時点でペイオフを実施していたら、一部の中小金融機関の預金流出が激しくなり、金融不安が加速して破綻がもっと続出したかもしれない。また、それまで護送船団行政による金融機関不倒神話の下で安心しきっていた預金者に、いきなり自己責任を求めるのも酷だった。

だからこそ、五年の猶予をもらっていたのである。実際、多くの金融機関はこの間に不良債権処理、リストラなど経営改善努力を重ね、ペイオフに備えてきた。ところが、また一年延期では、努力した金融機関は肩すかしを食らい、努力不足の金融機関が助かることになる。

いわゆる「モラルハザード」(倫理の欠如)、つまり甘えの構造である。護送船団行政そのものにほかならない。ペイオフが実施されれば、預金は原則として預金保険から支払われるが、全額保護の場合はほとんどが税金で賄われるわけで、国民負担がますます膨らむのである。

経緯からも分かるように、このペイオフ延期は、金融再生委員会-金融監督庁という金融行政当局による判断ではない。むしろ、金融当局は予定どおりペイオフを実施したかったにもかかわらず、選挙を意識した与党の政治的思惑に押し切られた格好である。

とはいえ、金融庁は今度は再延期などせず、予定どおり二〇〇二年四月からペイオフを実施するべきだ。そのためには、二〇〇〇年四月に都道府県から監督権限を受け継いだ信用組合の再編・淘汰が不可欠だ。その前提として、まず徹底的な検査を実施して問題点を洗い出す必要がある。いずれにせよ、ペイオフを今度こそ予定どおり実施できなければ、日本の金融行政、金融業界はともに世界の物笑いの種になるだろう。