2013年4月1日月曜日

カメラマンは心配性

写真を職業にする者にとって、いちばん怖いのは、果たしてちゃんと撮れたか、です。相手に嫌がられようが、危険な場所であろうが、早朝だろうが深夜だろうが、「現場」にいなければ絶対に写真は撮れません。約束の時間に間に合いませんでした、露出を間違えました、ピントが合っていませんでした、カメラが故障していました、は絶対に許されません。特に新聞や雑誌の仕事の場合、忙しい人物が相手なので撮影も短時間、締切りも迫っているため、ほとんどの場合、二度と撮り直しのきかないワンチャンスの勝負です。

四十年以上も写真を撮っている筆者も、カラーリバーサルフィルムで撮影したときは、いまだに現像が上がってくるまで心配でなりません。最新のフルオートのカメラで撮っても、使い知慣れた露出計を使ってマニュアルカメラで撮影しても同じです。かつて同僚からこんな話を聞いたことがあります。週刊誌のカラーグラビアの仕事で大阪に出張した帰り、やれやれと新幹線の座席に身を沈めて曜ビールを飲みかけたところ、同行の編り集者が「今日の写真は写っているでしょうね」と、ひと言ポツリと言ったというのです。

それから東京までの三時間、同僚は、どういう意味で彼がそう言ったのか、悩みつづけたそうです。狙い通りの写真が撮れたかという意味か、それともフィルムに写真はちゃんと写っているかという意味か。この気持ち、分かりすぎるほど分かりました。カメラマンは仕事が終わって引きあげるとき、誰もが同じことを自問自答しているからです。一つ一つに答を出してゆき、最後に残った最大の気がか。りが「写っているか」なのです。それを面と向かって聞かれて、「ああ、写っているよ」と確信を持って答えられるカメラマンなど、一人もいないのではないでしょうか。

カラーリハーサルで撮影したときは、カメラマンは現像が上がるまで、口にはしなくても、頭の中ではいくつもの心配が渦を巻いているのです。新幹線でビールを飲んでも、本心からはとても酔えるものではありません。そんなときに「写っているでしょうね」と言われたら、頭から水をぶっかけられたも同然です。カメラは故障しないともかぎりません。一台しか持って行かなければ、もし故障でもしたらお手上げです。だから必ず予備のカメラを持ってゆきます。特に重大な仕事は、必ず二台の力メラで撮り分けます。あIるいは別々の二本のフィルムに撮ります。カメラマンが汗をかきながらも大きな重いバッグを持って出かけるのは、そういう理由からでもあるのです。はやりの言葉でいえば、危機管理のためでもあるのです。

社に戻ったら、できるかぎり急いで現像したいと思うのは、少しでも早くこの心配から解放されたいからなのです。写真を撮っていて、いちばんガックリくるのは失敗したときですよね。ピントが合っていない、ブレている、露出がオーバーで真っ白-こんな失敗は筆者も数かぎりなくやってきました。では、こういう失敗をなくすにはどうすればよいか、妙薬はたった一つしかありません。その薬の名は「失敗」です。これほど苦くて効き目のある薬はありません。それも、何回も繰り返して飲まなくてはいけません。