2014年8月22日金曜日

即発行者以外の者の民事責任

平成18年のライブドアの粉飾決算のケースでは、関係者に対して強制捜査が行われた時点で株価が急落しました。しかし、強制捜査は風説の流布・偽計取引(158条)の容疑で行われたのであり、粉飾決算の容疑が明らかになったときにはライブドアの株価はすでに下落していました。したがって、規定を形式的に当てはめると推定損害額は極めて低額になってしまいます。裁判所は、検察官が報道機関の記者に対して粉飾決算の容疑を伝えた時点で公表があったと捉えて、妥当な結論を導きました(東京地裁平成20年6月13日判決)。投資家保護を実効性のあるものにするためには、不確かな情報が流布している期間を除外して公表日前後の1ヵ月をとるなど柔軟な解釈も必要になると思われます。

有価証券報告書等に不実記載があった場合、不実記載を行った者だけでなく監視を怠った発行者の役員(取締役・監査役・執行役)にも損害賠償責任が課せられています(24条の4)。発行者の役員は、不実記載を知らず、かつ相当な注意を現実に用いたにもかかわらず知ることができなかったことを証明しない限り、責任を免れることができません。また、不実記載のある財務書類を不実記載がないものとして監査証明をした公認会計士・監査法人も、監査証明につき故意または過失がなかったことを証明しない限り、投資家に対し損害賠償責任を負担します。

荷条二発行者が倒産するなどして資力がないときはヽ役員゛監査法人らの損害賠償責任が投資家保護にとってとりわけ重要になります。役員が免責されるための「相当な注意」とはどのようなものか、監査証明について過失がなかったとはどういう場合かは重要な解釈問題ですが、これらについても参考となる判決が現れています(ライブドア事件に関する東京地裁平成21年5月21日判決)。投資家がこれらの者の責任を追及するときは、不実記載によってどれだけの損害を被ったかを立証しなければなりませんが、発行者の責任に係る損害額の推定規定(21条の2)は、これらの者の責任額を認定する際にも尊重されるべきでしょう。

有価証券報告書等の不実記載が発覚して株価が下落した場合に、不実記載の発覚前に株式を取得した投資者が発行者や発行者の役員の損害賠償責任を追及する訴訟が最近増加しており、損害賠償を認めた判決も出ています(西武鉄道事件に関する東京高裁平成21年2月21日判決など)。ただ、投資者が高値で買わされた差額部分と不実記載の発覚によって生じた市場価格の下落幅のいずれを投資者が被った損害とみるべきかとか、不実記載の発覚によって上場廃止の可能性が高まり、それを反映して株価が下落した場合に損害額をどう算定するかといった難しい問題も残されています。

課徴金制度が初めて導入された平成16年改正では、継続開示違反は課徴金の対象とされませんでした。①課徴金制度は、違反者から経済的利得を剥奪するという考え方を基礎にしており、継続開示違反については違反者の経済的利得の額が不明確である、②もし経済的利得を超える課徴金と刑事罰とを共に科すと、憲法が定める二重処罰の禁止に反するおそれがあると考えられたようです。しかし、その後、平成16年10月の西武鉄道事件をはじめとして継続開示に関する不適正な事例が相次いで発覚したこと、発行市場と比べて流通市場における取引金額が格段に多いことを考慮すると継続開示違反を抑止する必要性は発行開示違反に比べて劣るものでないことから、平成17年の改正により、継続開示違反にも課徴金を及ぼしました。