2015年3月18日水曜日

経済の基礎的諸条件

強力な岩盤と想定されていた株価二万円割れについて、さまざまな憶測や陰謀説示取沙汰された。経済の安定性と秩序維持を確保する上で最重要な根幹である金融システムを動揺させるほどの株価の暴落であったため、スケープーゴート探しが始まったのである。このなかで有力な仮説の一つは、外資系の会社による金融先物やオプション取引を広範に採用した大規模な売り投機が株価の暴落をもたらしたとするものであった。

外資系のファンドによる銀行株を中心とした日本株の全般的な売りが大規模に展開されたことは確かであった。だが、九二年四月の日本株大暴落の中心的理由が本当に外資系の投機によるものであったかどうかぱ、今となっては確認のしようもない。しかし、この四月初めの暴落の直前に、投資家向けの高級週刊新聞として著名なハロンズが、日本の株式市場に関して総悲観説を大々的に展開したのであった。

『ハロンズ』が"Sayonara"と題して特集した日本株の暴落論が、外人投資家に及ぼしたインパクトは確かに強烈であったと推測できる。九二年四月六日付の同紙の一面をみると、北斎の富嶽三十六景の浮世絵をもじって、東京株式市場を表す帆掛け船の″日本丸”が急降下するなかで、大波に今にも飲み込まれそうになっている絵が描かれている。この挿絵は当時の状況を見事に描き切っていたといってよいだろう。また『ハロンズ』は、九〇年初めから開始した日本株の大暴落は一九二九年のウォール街における米国株暴落と八〇年における金価格暴落に並び、二〇世紀でも最悪の三大バブル崩壊の一つになる可能性を指摘したのであった。

日本株が歴史的大暴落に追い込まれ、金融システムすらが動揺するまでになったのは、それだけ十分な条件がわが国の径済や金融面に生じていたためである。火のない所には煙が立だないのと同じように、いくら外資系の投資家が、先物取引やオプション取引といった最新の投機的手段を駆使し、大挙して日本株に売りを仕掛けたとしても、株式市場や経済の基礎的諸条件から判断して暴落する条件が存在しないならば、マーケットというのは本来的には何らの動揺も示さないのである。