2015年4月17日金曜日

電子書籍のインパクト

本格的な電子書籍が日本の出版業界に与えた一番のインパクトはなんでしょうか。私は「価格の自由化」だと考えます。電子書籍は再販制度の対象外で、紙の本では制度上できなかった値上げや値下げが簡単にできます。日本の出版業界は、電子書籍によって、多彩な価格戦略をおこなう余地を手に入れたのです。ところが、価格戦略についてほとんど意識してこなかった出版社や著者は、電子書籍での印税率がどうなるか(売上のうち著者にどの割合を分配するか)は話題にしたものの。肝心の価格をどう決めるかについては深く考えていないようにみえます。「紙の本と電子書籍を同時に売るなら、電子書籍の価格は紙の本の何割引かにする」といった感覚で。かなり適当に価格を決めている感じです。

日本でも、例外的に価格戦略のようなものを電子書籍で試している出版社はあります。しかし、単純にかなり安く売って、ダウンロード数が増えて喜ぶといった感じです。最初に安い料金設定をしすぎて、そのあと値上げできずに苦しんでいるインターネット広告や、無料で情報を流しすぎて失敗した新聞社など、過去の他業種の失敗例からなにも学んでいないようで、かなり危険な状況です。IPadが登場し、2010年が電子書籍元年と呼ばれるようになってから、電子書籍ビジネスに関係する企業は、自社内でも、同業者とも、他業種とも、電子書籍のフォーマットや販売ルートといったことを真剣に議論し始めました。しかし、本書執筆中の2011年前半に何人かの関係者に質問したところ。出版社が中心になって価格戦略をきちんと議論する動きはほとんどない、とのことでした。