2013年7月6日土曜日

アメリカ国債の最大の保有国

たとえば、うつ状態においては、ものごとを過度に深刻に受け止めたり、良い点は見ずに、悪い点ばかりを過大視したりする。認知療法では、そうしたネガティブな認知を見つけ出して、それが本当に現実的な妥当性をもつかを共に検討し、悲観的な受け止め方が、実は思い込みに過ぎないことに気づかせて、間違った認知のワナから脱出させるのである。確かに状況には不利な点もある。しかし、先進国で一番多くの人が自殺を遂げなければならないほど、この国の状況は悪化しているのだろうかと、改めて検討してみるのである。本当にそこまでひどいことになっているのだろうか。ダメなはずの国が、なぜ円高になるのか。たとえば、失業率5%という数字にしても、これは、失業率としては先進国の中でもっとも低いレベルのものである。日本より低いのは、スイスとノルウェー、オーストリアくらいのものである。ドイツ、フランス、イギリス、アメリカなどは、7~10%前後で、10%を超えた状態が続いたこともあった。国際的に見れば、失業率5%というのは、羨ましがられるほど低い水準なのである。

また、円高という問題にしても、輸出企業にはたしかに不都合だが、貧しくなっている国の通貨が高くなったりはしない。アメリカやヨーロッパよりも、日本に富があるから、通貨が強くなってしまうのだ。実際、日本の対外純資産は、二〇〇九年末の時点で、二百六十六兆二千億円余りであり(図2)、過去最高を記録している。ちなみに二位は中国で、百六十七兆七千億円余りとなっている。その後の円高ドル安ユーロ安で、円換算で目減りしたとはいえ、それでも軽く二百兆円ある。これは世界最大である。しかも、その地位は二十年も続いているのだ。日本は過去二十年にわたって、世界最大の債権国であり続けてきたのだ。対外純資産という点でいえば、日本は世界で一番金持ちの国なのである。逆に言うと、だからこそ円高になってしまうのだ。

GDPでは中国に追い抜かれたが、まだ、これまで蓄えてきた資産は莫大であり、そこからは、毎年、金利などの収益がもたらされる。その額は、およそ十二兆円。それに対して、貿易黒字は前年より倍増したものの四兆円にとどまる(二〇一〇年)。貿易黒字の一・五倍程度を、海外投資からの上がりで稼いでいるのだ。円高は輸出企業にとって、大きなデメリットをもたらすが、それは経済が強いということなのである。自国の通貨が値上がりすることは、自国の通貨が値下がりしてしまう状況に比べれば、ずっとコントロールが容易である。自国の通貨が暴落すると、それを止めることは、ほとんど不可能である。しかし、自国の通貨高は、通貨の量を増やすだけで、ブレーキをかけることができる。円の人気が高まっているということであり、誰も円に見向きもしなくなった状態とは百八十度違うのだ。

もっと危ない国の国民も、元気に暮らしているそれに対して、巨額の借金国となっているのが、アメリカやイギリスである。アメリカの対外債務の総額は、二〇一〇年中に十四兆ドル(約千二百兆円)を軽く突破する見込みで、二〇一五年には、二十兆ドル(約千七百兆円)に迫ると推定されている。対外資産から対外債務を差し引いた純債務も、二〇〇九年末で二兆七千億ドル(約二百二十兆円)を超えている。つまり、日本の対外純資産とちょうど同じくらいの借金があるのだ。それだけの借金を、アメリカは国債を発行することで賄い、それは結局、印刷したドル紙幣によって支払われる。ドルはどうしても安くならざるを得ない。

アメリカ国債の最大の保有国は、現在中国で、わずかの差で日本が続いている。それぞれ、発行残高の二割程度を保有し、両国で四割を買っている。しかし、かつて言われていたように、日本ばかりがアメリカの債務を支えているという構造は薄らいできている。ただ、円高になるとアメリカ国債などの海外資産の価値は目減りしてしまう。つまり、国富の一部をアメリカに移転させられた形になる。そのために、日本は貧しくなったということを主張する経済学者さえいたが、それもまた日本人特有の被害妄想的な悲観論に思える。豊かになる国は通貨高になり、その分、海外資産が目減りしてしまうことは致し方のないことなのだ。というのも、海外資産は、ある意味、保険のようなものだからだ。万一、自国が傾いて、通貨安になったときには、海外資産が大きく膨らむことで窮地を鸚げるからだ。